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プロローグ -- 本編 12 ・ 3
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         番外編 1
1-1
お昼過ぎ特有の穏やかな日の光の下、私は舗装された道の上を歩いている。

今、私がいるのはギルド「ユグドラシル」の敷地内、正門を通って少し歩いたところ。
左手には訓練場、正面にはギルドの入り口が見える。
入り口はガラス戸なため、少し中が見えた。
見た感じ、今日は受付は人が少なくヒマなようだ。
仕事の鬼と言われたミルミアが欠伸をしている。これは珍しい。
あの毎朝6時に必ず目を覚まし、30分で支度を終え、7時には必ずここに来て、
まず観葉植物に水をやり、コーヒーを沸かし、色々と雑用をこなした後に、
交代の時間である午後3時まで死んでいるかのように受付の席から動かない、
正に受付の鏡とも言えるあのミルミアが。
これは何か虫の報せかもしれない。おぉ、何だか悪寒が。

とか、どうでも良いことを考えているうちに入り口に着いた。扉を開け、中に入ると、
既にミルミアの表情はいつも通りの無表情。「欠伸って何です?」
と、でも言いたそうな表情にも見える。
眼鏡の奥にある新緑色の瞳がこちらを静かに見つめていた。
 
「おはようミルミア。今日は誰か来た?」
 
とりあえず挨拶。昼なのにおはようなのはわざと。
挨拶の中でもおはようは何だか親しげな感じがして良い、というのが私の主張だが、
周りに受け入れられたことはない。少なくともこんばんはより柔らかい感じがするんだけどなぁ。

 「貴方を含めれば4人目です。今日はどうしました?」

私はギルドのメンバーなので、仕事のために来ており、依頼しにきたわけでは当然ない。
もちろんそんなことを聞かれているわけではない。

「……徹夜。またどっかの誰かさんがいつもの拾ってきたから、
それで帳簿と夜通し睨めっこしてたわけよ。
まぁ、この前のおっきな仕事で結構潤ったから調整しなくても良かったんだけど、
余裕があるとも言えないからね。どっかの誰かさんのせいで」

「またリドですか。懲りませんね。……どうでした?」

「今回は男だったよ。見た感じだと16〜8歳って感じかな。線が細くて、
背はそこまで高くはなかったなぁ。う〜ん、顔はまぁ、悪くはなかったけど、
少なくとも私のタイプじゃなかったわ。せめて、もう10pは欲しいわね。うんうん」

 「……そこまで聞いてませんが」いつものようにきっちり突っ込んでから、
少し俯き、考えた(ように見えるのは私の洞察力の賜物だろう)後、私に向き直って口を開いた。

 「……もしかして、また。でしょうか?」
その言葉を口にする彼女の目からは、何も読み取れなかった。
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